2008年の経営環境を考えるために、07年の状況を整理します。OECDは5月に公表した世界経済の成長率予測を、12月上旬に下方修正しました。これはサブプライムローン問題が大きく影響しています。日本の各研究機関も国内の経済成長を0.3〜0.5%程度、下方修正しました。三菱総合研究所の予測では、07年度は名目のGDP成長率が1.0%であり、実質はGDP1.5%成長としています。従って、07年度はデフレ脱却できないということです。08年度は名目2.2%成長で、実質2.0%成長と予測されています。金利が上がる気配はなく、企業物価は上昇しているものの、消費者物価はあまり上昇していません。
一方、民間最終消費支出は確実に伸びています。一般的に言われているほどは、消費不振ではなく、堅調と言えるでしょう。1.6〜1.7%の成長率で、高い安定性を示しています。
住宅では建築基準法の厳格運用による、官製不況が起きています。日本の住宅問題の状況と、輸出が拡大するかどうかが国内の経済成長率を左右すると思われます。
現在、問題になっている米国のサブプライムローンの構造について整理してみます。米国には独立系の小銀行が多数あり、住宅資金を貸し付けるとその債券を大銀行に売ります。債券はインベストメントバンクに集められ、専門会社などの保証により、ある程度ローリスク・ローリターンの状態で販売されますが、投資家にはその債券にどれほどのリスクがあるかがわかりません。サブプライムローンは金利が高く、よく売れるため、小銀行はどんどんローンを設定していき、結果としてリスクが高まったのです。
サブプライムローンによる損失は、この先も増加するでしょう。12月は米国の企業の決算期であり、金融機関は11月末から12月初頭にかけて予想損益を修正しました。この影響を受け、日本企業は2月の第3四半期の決算開示の際、相次いで企業業績見通しの修正を公表することでしょう。支店や現地法人を通じて状況を把握している企業も、それまでは公表できません。2月は要注意の時期です。
サブプライムローン問題は、日本企業にも影響を与えます。米国の建設不況によって、関連需要が低迷し、日本の輸出型製造業の売上が低迷します。米国の経済成長率が下がるのを見越して、円高ドル安になり、輸出不振が収益を圧迫、日本企業も株安となります。
サブプライムローンで損失を出した人たちは、今後、短期の儲けが出る商品市場に資金を向けるでしょう。つまり土地へはお金は回りません。銅や金といったコモディティーに移っていくことでしょう。
金利への影響ですが、原油高と円高が必至とすれば、上げようがありません。GDPデフレーターも08年は0%または0.1%程度。歴史的な低金利の状況は、まだ続くと考えられます。
企業の設備投資の伸びは、非常に低下しています。06年度は5.6%の伸びでしたが、07年、08年度は1%台の見込みです。設備投資よりもキャッシュフローのほうが多い状態は、08年度も変わりません。
設備投資がなされず、余剰になっているキャッシュフローの行き先は3つ考えられます。1つ目は、資本市場。上場会社は、自社株買いによる株価下落防止を積極的に行っています。2つ目は負債の削減。企業はこの十数年来、有利子負債を削減し続けています。この結果、資金需要が伸びず、金利上昇にはつながりません。こうした状況から、金融機関は伝統的な貸し出し業務の範囲では、収益機会が縮小することでしょう。
キャッシュフローの3つ目の行き先は、M&A(企業の合併・買収)です。これは余剰資金の有力な使い途のひとつです。
最近の企業収益の特徴は、大企業では経常利益がプラスとなっていることです。売上、経常利益ともに増えている一方で、中間投入要因(原材料など購入しているものの値段)は上がっています。消費者物価とGDPデフレーターは上昇していませんが、企業物価はこの数年来上がっていることから、大企業は企業物価の上昇分を人件費の削減によってカバーして利益を上げているといえます。
中小企業では、ほとんど利益が上がっていません。これは中間投入要因が足を引っ張っているためです。現在は人件費削減で何とかカバーしていますが、人件費の削減には限界があります。このように、収益を維持する構造がいつまで続くかという問題を抱えています。
こうした状況から大企業と中小企業では、労働生産性の差が拡大しています。大企業では設備投資を行って効率を上げ、利益を生んでいます。中小企業は、売上高付加価値要因によって利益を生んでいます。最近では従来と異なり、設備投資をしている大企業のほうが、資本の少ない中小企業よりも資本回転率が高い状況となっています。
また中小企業では、売上要因が利益増に貢献しにくくなっています。その原因のひとつは、熟練者不足です。資本装備が少ないところに、熟練者が減るため、売上が減少、資本回転率がさらに下がり、きわめて収益を出しにくい状況となっています。
景気の回復が鮮明になった05年頃から、常用労働者が増えてきましたが、現在ではパートの割合が再び高まっています。これは、景気が良くなれば賃金の高い正社員化が進む、という一般的な予想に反する状況です。
労働需給が厳しくなっていったのは03〜06年です。しかし総務省の調査では、その3年間で、サービス業の非正規労働力が約112万人も増えています(正規は6万人増)。卸・小売では、正規が21万人減、その分非正規が20万人増となっています。
年齢別にみると65歳以上の非正規労働力が、23万人増えました(正規は2万人増)。第1次ベビーブーマーを含む55〜64歳では、非正規71万人増、正規60万人増と半分以上が非正規労働力です。45〜54歳は正規労働力が65万人減っている一方、非正規は5万人しか減っていません。第2次ベビーブーマーを含む35〜44歳は、増加分の半分以上の45万人が非正規労働力となっています(正規は41万人増)。25〜34歳は、正規労働力が52万人減、非正規が47万人増という状況です。失業率の改善は、いわゆる「失われた10年」世代の非正規化を伴っているのです。
現在、高所得の60歳前後の人が、労働市場から退出していっています。若者の雇用は拡大していますが、正社員の割合は高くなく、正社員であっても低賃金です。つまり、高所得者が減っているのです。賃金のうち消費支出にまわす割合が高い低所得者が増えれば、所得の伸びの割りに消費が伸びます。すなわち、最終個人消費支出は安定的に伸びていますが、それを構造的に支えているのは低所得者です。これは「ブームなき消費成長」と言える状況です。
人手不足であるのに非正規労働力が増えているという状況は、企業にとって社員として雇いたい人が、いなくなっているということを意味しています。これから、経済が成長すれば、潜在的な雇用圧力が本来の完全雇用状態を超えてしまいます。
01年から06年に、世界的にみても極めて高学歴の若者が、毎年20万人ずつ就職することができませんでした。彼らは毎年1歳ずつ年を取ります。日本企業は彼らを採用しないため、ずっと就職できません。これは大きな社会損失です。彼らを活用する必要があるでしょう。
今後、日本企業では人材育成が極めて重要になると考えます。最近、大量採用が復活していますが、これまで採用を絞ってきた影響から、企業は教育ノウハウを欠いています。企業の賃金制度の最近の特徴である資格等級のブロードバンド化、成果型報酬などによって、ベテランは若手を育成する人ではなく、若手と競争する人になってしまいました。ベテラン社員の若手教育へのモチベーションが欠落していることも大きな問題です。
また、若手不足を補うため、企業は中年層に対してスペシャリストになることを求め、中年層は自らのエンプロイアビリティを高めるべく、スペシャリスト志向になりました。腕に覚えがあれば転職が容易、あるいはリストラされにくいという理由もあったと思います。しかし、その結果、管理職ができる中高年がいなくなっていることも、人材育成面での問題になっているようです。
人材は企業経営にとって極めて重要ですが、その人材が不足した状態で、企業戦略として成長を考えるのなら、会社を買うしかない時代になったのかもしれません。現行の出入国管理法があるかぎり、人手不足は容易には解消されません。
人材によって伸びるのか、企業に対する投資で伸びるのか、あるいはその両方か。企業は、その選択を真剣に考えるべき時期が到来しているのだろうと思います。
日経ビジネススクールでは、企業成長につながる戦略の構築や人材づくりに役立つセミナーを多数開催しています。
ウエッブサイトの開催講座一覧を是非ご覧ください。
■日経ビジネススクール ウエブページへ(http://www.nikkei-nbs.com/nbs/index.html)
また、毎月2回に開催情報をお送りするメールサービスもございます。
■登録はこちら(http://www.nikkei-events.jp/mailservice/m_mailservice.html)から